―――世界を襲来した非常識、
                     僕には特に関係なかった異常事態
              でもある日、それはとても身近な物になった―――

A freeloader angel

シンシンと雪が降り積もる12月二十四日。
彼女もいない俺は、イブの夜だと言うのに、ついでに誕生日だと言うのに、たった一人で過ごしていた。
「あー、寒みー」
ズズッと鼻をすする。
する事もないので、バイトが終わったらまっすぐ家に帰るしかない。
今日も何時もの様に家の合間をすり抜け、テクテク家を目指す。
町はすっかりクリスマス。みんな陽気に浮かれている・・・と言うわけでもない。
途中、イブを祝う声の他にすすり泣く様な声も聞こえてきた。
おそらく、イブの日だと言うのに赤紙でも貰ったのだろう。
死の宣告のようなその手紙は、第二次世界大戦の時と変わらず赤色で、それで戦地へ赴く人の生存率は三割程度しかない。
泣きながら、家族と最後の晩餐を取っているのだろう。
そう、今は戦時中なのだ。
三年前、まるで何処かの三流小説のように唐突に円盤が現われ、やはり三流小説のように突如攻撃を仕掛けてきて宇宙人と戦争になった。
ちょっと語るのも馬鹿馬鹿しいが、事実なのだ。
確かに三年前、人類は人類史上初の宇宙戦争に突入した。と言っても戦っている場所は地上なのだが、まぁソレはソレとして。
とにかく、その戦争は未だに続いており、遂にわが国日本では国家総動員法が復活した。
15年ほど前に軍隊が復活して以来の事件となった。もう憲法なんて無視(シカト)である。
おかげで町からはどんどん若者が消えていく。
奇跡的にも俺は、18歳になる今日の誕生日まで赤紙が来た事はない。
そのため、町を歩くだけで刺すような視線を受ける。
その視線の主は大抵が徴兵された人の母親か、その妻である。
その視線は辛い、これは尋常でなく辛い、一度は自殺を考えたほど辛い。
だが、俺は死ななかった。
当然だ。死ぬのは怖いからだ。
それに、俺がそのような視線で見られるのもまぁ納得できる。
俺も逆の立場だったら全く同じ事をしただろう。
かたや毎日訓練をさせられ、命を賭けて戦い。かたや普通においしい飯を食べ、俺の様に学生生活をエンジョイ出来る。
「・・・・こりゃぁ、恨まれても当然だな・・・・」
と、しかめっ面で呟く。
でもまぁいい。恨まれても大事な命を賭けずに済むのだから少しも苦にならない。
むしろ幸せすぎるくらいだ。・・・・・・たまに死にたくなるのは内緒だ。
アパートの階段を登りながらそんな事を考える。
俺の部屋の前までたどり着きドアノブを回す。
「あれ?」
俺は首を傾げた。俺には鍵をかける前にドアノブを回すという癖がある。
行く前に閉めたドアはドアノブを回しただけでは当然開かない。
だが、ドアは当然のように開く事が出来た。
鍵をかけ忘れたか?と思い返してみるが、確かにかけた記憶がある。
空き巣、と言う単語が頭に浮かぶ。
「・・・・まぁいいか。別に取る物もないだろ」
そう判断し、奥の寝室兼居間の引き戸を開けた。

そうして、初めに目に飛び込んできたのは金髪だった。
その幼い、端正な顔立ちに映える淡い金色は、電灯をつけていない部屋に差し込む街頭の光を受け、身震いするほど美しかった。

次に飛び込んできたのは白だった。
白、真っ白、まさに純白と呼ぶに相応しい、ただただ真っ白い、ふわふわした服。

その次に飛び込んできたのは赤だった。
赤い、赤い、白い洋服とはミスマッチのハーモニカ。
その愛らしい首に、そっとかけられている。

そして、淡い青の瞳。ピンクに近い、赤の唇。細い手足。長いまつ毛。

どれを取っても、ピッタリ好みと一致した。

ありの驚きと興奮に思わず息を荒立ててしまう。
ハタから見れば単なる変態にしか見えない。
だと言うのに、少女は少し驚いた顔をしたものの、ニッコリと笑いかけてくる。
やばい・・・・人の道を踏み外しそうだ・・・・・・・と、取りあえず落ち着こう。
ゆっくりと息を吐く。そうしてもう一度、冷静になって観察する。
・・・・・・・やっぱり・・・・かわいい。
ベッドの上でちょこんと座っている純白の少女は、やはり何度見ても反則的にかわいい。
その魔性のハニーフェイスに、思考が停止しそうになる。
「・・・・・・あっ」
思考停止目前と言う所で気が付いた。
その少女の背中に、白い羽が当然のように付いている事に。

                   *

俺は沈黙したまま少女を見つめ、考えていた。
俺は一体、何処で狂ってしまったのだろう?
別に麻薬をやっていたわけではない。死ぬほど疲れていたわけじゃない。精神が不安定だったわけでもない。
ああ・・・・まぁいい。悩んでも仕方がない。明日、精神科に行こう。幻覚が見えるんだ。立派な病気だろう。
ぼんやりと少女を眺めながらそんな事を考える。
不安そうな顔で、少女はこちらを見つめてくる。その表情を見て、俺はつくづく思う。
幻覚って、こんな細部までリアルなんだなぁ・・・・・と。
その時、俺は決めた。
このまま眺めていても仕方が無い。どうせ病院は明日の朝まで開かないんだ。
なら・・・・今のコノ状況を楽しもう。
まず、コミニケーションを取らなくちゃな。ええと・・・・ああ、思いつかん。
なんでもいいや。
「ええと・・・ご趣味は?」
最悪だ。いきなり趣味なんて聞くか?普通名前を先に聞くだろ・・・・・。
自分の幻覚相手だと言うのに妙に慌ててしまう。
まるで、自分であって自分でないような感覚だ。
そんな俺の心の葛藤を知ってかしらずか、少女は笑顔で答える。
「趣味はハーモニカです」
その暖かい笑顔が部屋中に広がる。男臭い部屋が、一気に洗浄された気がした。
・・・・・ええ、・・・・ええなぁ、もう幻覚でもいいや。
だんだん、そう思うようになっていた。
少女の仕草の一つ一つが、いちいち俺の心を麻痺させていく。
そうだ・・・・名前を聞こう。何事もまずはソレからだ。
「君・・・・名前は?」
そう少女に尋ねる。が、まるで言葉の意味が分らないかのようにキョトンとした表情をしている。少し、慌てた。
「あの・・・・君の名前を教えてくれるかな?」
もう一度尋ねる。しかし少女は困ったような表情をするだけで、口を開こうともしない。
・・・・・・しばらく沈黙が流れ、少女はやっと口を開いた。
「名前って、何ですか?」
・・・・予想外の回答だった。
趣味を知ってて名前を知らない・・・・天然か?・・・・それとも足りないのか?
まぁ、幻覚なんてこんなもんか・・・・・高望みするのは良くない。
ま、名前なんてどうでもいいしな。
少女はしきりに名前の意味を尋ねてくるが、俺は「いいのいいの」などと適当な事を言ってごまかす。
・・・・ハッキリ言って、説明するのがめんどくさい。
それよりも、気になる事がある。
この少女は俺の幻覚だ。いわば俺の妄想だ。そして、この少女はどう見ても少女だ。
いや、別に俺がロリコンでないと言っているわけではない。
多少だがそのケがあると自分でも自覚している。
いや、むしろ男としてより若い体を求めるのは当然、そう、むしろ正常だ!!
別にそんな事はどうでもいい。
少女が金髪だとか、目が青いとか、そんな事など関係ない。
だが、一つだけおかしい。
何故、この少女には羽が生えているんだ?
俺は別に羽の生えた女の子が好きなわけじゃない。それどころか邪魔だ。
抱き合う時も、寄り添って乳繰り合う時も、ナニをする時でさえ羽は邪魔だ。
だんだん疑わしくなってきた。
コイツは・・・本当に俺の幻覚なのか?・・・・いや、それ以外に説明が付かない。いや、でも・・・そうか、
俺の潜在意識の中では天使な女の子が好きなのだ!・・・そんな馬鹿な・・・認めたくえねぇ・・・・・・いや、認めよう。
俺ももう大人だ。自分を否定しても何にもならん・・・でも・・う〜む、しかし・・・ええい、女々しいぞ俺!
俺は天使な女の子が好きなんだ!そうだ。それでいい・・・俺は間違っちゃいねぇ!!俺は正しい!!
そう決断した。
決断すると早いもので、さっさと頭の回路は切り替わる。
さっきまでの悩みが嘘のようにすっきりし、そして当初の目的を思い出した。
・・・・そうだ、仲良くなろうとしてたんだっけ。
「君、そんな背中に羽なんか生やして、一体何者なの?」
とりあえず、場もたせ感覚でそんな質問をする。
「天使です」
と、少女はニコニコしながら答える。
見れば分るよ!と、思わずツッコミそうになったが寸前で止めた。
「そうじゃなくてね。君が何処の誰で、何の為にここにいるかが知りたいんだ」
俺はそう言って出来る限り愛想笑った。
「神様の所から来ました。ここに来た理由は神様に命令されたからです」
と、少女は淡々とたわけた事を言う。
ハッキリ言って呆れた。自分自身の想像力の無さを相当軽蔑した。
いくらなんでも酷すぎる。
神様ぁ?・・・ハァ?・・・命令されて来た?・・・ハァ?・・・・何考えてんの?俺?
今時小学生でももうちょっとマシな事言うぞ・・・・・
もっと考えられるだろうが、他にも・・・・・・・せっかく宇宙人と戦争なんてやってんだからソレ使えよ、ソレ。・・・・
・・・例えば、宇宙人のペットとか、こいつ自信が宇宙人だとか、色々あるだろぉ?
「・・・・はぁ」
なんとなく、溜め息が出てしまう。ここまで俺が発想力が無いとは思わなかった。
取りあえず、質問を続ける。
「あの・・・さ。命令って何だったの?」
少女は眉間に皺を寄せる。明らかに態度が変わった。なんとなく、そわそわしている。
少女はじっと上目づかいにこちらを見、申し訳なさそうに答えた。
「・・・すみません。・・それは、言えないんです」
・・・本当に言えないのか?実は俺がただ考えてないだけではないのか?
そうあやぶんでいると、いつの間にか少女はさっきまで座っていたソファーから降り、床でちょこんと正座している。
そしていきなり土下座した。
「ここに置いてください。他に行く所がないんです」
と、唐突に少女は言った。俺は自分自身に呆れかえってしまった。
どうやら、俺はこの幻覚の少女のことをよほど気に入ってしまったらしい。
少女を見る。その背中には、間違いなく白い羽が生えている。
どこまでおかしくなるんだろうな・・・・・・俺は。
ゆっくりと、溜め息を吐く。
何故か、吸った事もないタバコが無性に吸いたくなった。

                   *

・・・・寒い。
寝返りを打つたびに、床の寒さが肌に伝わってくる。
ちっ・・・金がかかってもいいから床暖房にしておくんだった。
と、今更後悔する。
俺のベッドは完全にあの少女に占領されていた。
あの後、タバコの代わりにふて寝しようと思ったのだが、
フェミニストの俺としては例え幻覚だろうと少女を床に寝せる事など到底できなかった。
結局、俺がこうして床で寝ている。
風邪でもひいたらどうするんだ・・・・・まったく。
上半身だけ起き上げ、少女の寝顔を見る。
月の光で映し出されたその顔は、芸術品と呼べるほど美しい。
「まったく、幻覚の癖に一丁前に寝息なんぞ立てやがって」
「幻覚の・・・癖に」
まるで、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
その夜、幻覚相手だって言うのに、俺は一睡もする事が出来なかった。

                   *

朝一番で医者に行った。三回ずつ検査した。三軒は回った。
医者どもは皆、口をそろえて言う。
「脳には何の異常も見られません。ノイローゼや過労の心配もありません。健康そのものです」
医者の言う事とはいえ、昨日天使を見たばかりなので信用出来るわけが無い。
だが、三回検査しても、全く同じ事を言われた。
ヤブかなと思い、他にも回って見た。が、結果はすべて同じ、それどころか。
「そんなに心配ならいっそ手術しますか?一度研修医に脳内の仕組みを詳しく教えたかったし」
と、真顔で言う奴までいた。
とにかく、俺はいたって健康で。脳に異常なし、薬物反応なし、ノイローゼの心配なし、過労でもない。
これでもし本当に見えるのなら、実在しているか現代の医学では治療不可能か、そのどちらかだそうだ。
「ま、夢でも見たんでしょうな」
それが、医者どもの見解だった。
馬鹿にするな!!
と、よっぽど怒鳴ってやりたかったが、医者どもの言う事にも一理あるので止めた。
そう、もしかすると昨日の出来事は俺の夢かもしれないのだ。
クリスマスなのに彼女もおらず、悲しさのあまり俺が見た夢なのかもしれない。
そう、思い始めた。
そうだ。きっとアレは夢なのだ。あんな羽の生えた少女など、この世に存在しているはずがない。
そう・・・あれは余りの寂しさに俺が見た。冬の・・・・冬の儚い幻なのだ。
「幻か・・・・あながち幻覚って言うのも間違っちゃいねぇな」
そう思うと、急に名残惜しくなった。
あの後さっさと寝てしまわず、もう少しだけあの少女の相手をしてやればよかった。
そんな事を考えなら部屋のドアを開ける。
そのまま、ベッドまで向かった。
当然、ベッドで誰か寝ているわけもなく、羽の生えた少女なんて見当たらない。
当たり前だ・・・・アレは、俺の夢だったんだから。
突然、虚しさが俺を襲った。
人生なんて所詮こんなもんだ。家に帰ったら天使がいたとか、そんな現実離れした事がある筈がない。
特に、俺みたいな奴が、そんな非常識と出会う筈がない。
皆と同じ様に普通に赤紙が来て、普通に家族と泣いて別れを告げ、普通に正体不明の宇宙人と戦って殺される。
そんな風に、普通に終わってしまうだろう。
そこまで考えて爆笑してしまった。
「・・ハハ、ハハハッハ、アハッハハハ」
普通じゃねぇ、ちっとも普通じゃねぇ、何処が普通だって言うんだ?
忘れてたぜ、すっかり忘れてた。
今この瞬間が平和すぎて、海の向こうで戦ってる奴らの事やその相手の事。
その現実を無視してた。
絶対に無視しちゃいけない事なのに、完全に無視(シカト)してた。
そうだよ、宇宙人と戦争してるなんて、これ以上の非常識が何処にある?
すくなくとも、三年前までは確実に異常だったんだ。
これ以上、異常を望んで何になるってんだ。
「それは、贅沢というもんだ・・・・このボンボンが」
そう呟いて苦笑する。
これは自分に言い聞かせる為の言葉だ。
そうでもしないと、きっと俺はあの少女を探してしまう。そう、思ったからだ。
だが、俺はどうもかなり贅沢なワガママ坊ちゃんらしい。
宇宙人と戦争してるだけでは満足せず、まだ、あの少女と言う異常を求めてる。
笑えた、傑作だった。
だってそうだ。異常を求めてるのは自分なのに、現実に満足したがっているのも自分だ。
コイツは見事な矛盾。
ほんとに馬鹿馬鹿しい。自分の意見も決められない愚かな子供になった気分だ。
いや、もしかすると、俺がその愚かな子供かもしれない。
愚かな子供のまま停滞して成長した姿が、今の俺なのかもしれない。
だとすると、俺は子供のままに死んでいくのだろうか。
そのまま歩いて、何故か開けっ放しにされているベランダに出る。
「逃れられない、圧倒的な現実・・・・か」
ベランダで、流れる雲を眺めながらそんな事を呟く。
自分や他人の人生の事など話すのも語るのも柄じゃないが、たまには良いだろう。
ど〜せ、友達なんてその為にいるようなものだ。
あいつ等だって散々やったんだ。今日は俺の気が済むまで語らしてもらうぜ。
そう思い、携帯のアドレス帳を開く。
アドレス帳には、家族と、俺の数少ない友人二人の番号が載っている。
俺は少し考えてから、二人とも呼ぶ事にした。
・・・どうせ呼ぶなら、多い方がいい。ソレが二人って言うのも悲しい事だけど・・・・。
・・・・・・パチンッ。
そこまで考えかけて、唐突に携帯を閉じた。
思い出したのだ。つい二ヶ月前、その二人の葬式が同時に行われた事を。
その事の事を振り返って見る。
みんな、同じような黒い服を着て、むやみに泣いていた。
俺も・・・多少は泣いたんだっけ?お前らが死んだなんてちっとも実感が沸かなくて、少しも悲しくなかったけど、
周りがみんな泣いてるから泣かないと悪いような気がして、無理やり泣いたんだ。
こいつら二人は、俺と出会う前から家ぐるみで仲が良かったらしい。
だから、葬式まで同時に行われた。
二人の仲の良さは徹底していて、別の家の子供だというのに風呂も食事も寝るときも一緒、
はたまた恋人を作った日もフラれた日も同じという素晴らしさだった。
俺も何回こいつ等がホモではないかと疑ったか覚えていない。それぐらい仲が良かった。
だからだろうか、皮肉な事に赤紙が来たのも同時、もちろん初陣も同時、そして、戦死した時間や死亡原因まで同じだった。
二人とも、味方が仕掛けた同じ地雷に同時に吹き飛ばされたそうだ。
二人は、死ぬまで仲良しだった。
小学校に入ってからは俺も加えて三馬鹿トリオと呼ばれていた。
が、二人の関係と比べると俺は完全に新参者だった。
むしろ、二人を三馬鹿の一員にしたのは俺の大活躍にのおかげだった。
毎日のように二人を悪い遊びに誘い、ろくに勉強させなければ当然成績は下がる。
いたずらばかりするのだから、先生の評価も下がる。よって三馬鹿となる。
だからだろう、どっちの姉か忘れたが、弟が死んでヒステリックになったどちらかの姉が葬儀の真っ最中に俺に向かって怒鳴り始めた。
弟が死んだのはまたお前が何かやったからだろう。と言う内容だった。
俺は辛かった。また、その姉さんが美人だっただけに余計たまらなかった。
それに、その姉の暴言を止めている周りも俺に対する視線は冷たい。
おそらく、考えている事は一緒なのだろう。
二人が死んだのは俺のせいじゃない!味方が仕掛けた地雷を踏んじまうほど二人がマヌケだったのがいけねぇんだ!!!
と、よほど言ってやりたかったが、止めた。
そんな事を言えば半殺し程度では済みそうになかったからだ。
変わりに、俺はその場から逃げ出した。
「許せ、二人とも。葬儀には最後まで出てやりたかったが、俺にはあの場に留まっていられるほど勇気がなかった。許せ」
そう携帯を眺めながら呟く。
ふと、涙が頬を伝って流れているのに気が付いた。
今更、二人が死んだ事に実感が沸いて悲しくなったのだろう。
二人の顔が浮かんでは消え、また浮かんでは消えた。
二人並べると、本当に兄弟のように見える。
「まったく、本当に血が繋がって無かったかどうか・・・・疑わしいよ。どっちかの親父が浮気してたんじゃねぇのか?」
思わず、そんな不謹慎な事を呟いてしまう。
いくらなんでも失礼すぎるな。と、自分自身に失笑した。
そうして、二人の記憶が、自分にとって大分大切な記憶だったんだと、初めて気が付いた。
笑った。笑った。笑いまくった。馬鹿みたいに笑った。
そして、携帯を投げ捨てた。
コレを持つのは、もう辛すぎる。それに、数少ない二人の友達がみんな死んじまった。
・・・・・・・・もう、使う事もない。
ベランダのすぐ下にゴミ捨て場がある。
携帯はそこに落ち、回収され、埋め立てに使われるなり、リサイクルされるなりするだろう。
俺もすぐに忘れよう・・・・それで、二人の記憶は無くなる。取りあえず、俺の世界からはなくなる。ただ、それだけだ。
・・・・・・・・・コンッ。
妙な音がした。普通ゴミに当たった時はこんな音ではない。
これではまるで、人に当たったような・・・・・・・・・・。
嫌な予感がした。
「まさか、人に当たったんじゃないだろうな?」
恐る恐る下を眺めてみる。
人には・・・・当たっていなかった。多分、アレは人じゃないから・・・・・・・。
大量のゴミ袋の上。小さなたんこぶを付けた少女が、もう白とは呼べない服を着て、気持ちよさそうに眠っている。
あの美しい金髪も、おろしたてのショーツの様に白かったあの羽も、全てが見るも無残にゴミで汚れていた。
俺は、思わず頭を抱えてしまった。





あとがきぃ〜
さて、皆さん始めまして黒田麒麟と申します。
友人のサイトの一部を借りさせてもらい、初めてWeb上で小説を公開する事になりました。
まだまだ全然途中ですが、いかがでしたでしょうか?
少しでも多くの人が楽しめ、
少しでも多くの人が続きが見たいと思ってくれる事を切に願っております。
それでは。

感想は掲示板かメールで書いてやって下さい。制作意欲が維持的に上昇するらしいです。 By.紋
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